労災かくしとは?罰則・報告義務・会社が報告しないときの対処法

労災事故が起きたにもかかわらず、会社が労働者死傷病報告を出さなかったり、事実と異なる内容で報告したりすることがあります。いわゆる「労災かくし」です。

労災かくしに当たる行為や罰則、相談先について、労働局が公表した事案の件数とともに確認します。

会社が労働者死傷病報告を提出していなくても、それだけで労災保険給付を請求できなくなるわけではありません。

会社が労災と認めない場合や事業主証明が得られない場合でも、労働者本人は労災保険給付を請求できます。労災に当たるかどうかを決めるのは会社ではありません。

勤務先の事業場を管轄する労働基準監督署へ相談してください。

※ 出典:厚生労働省「会社が責任を認めない場合の労災請求」

もくじ

労災かくしとは

「労災かくし」とは、事業者が労災事故の発生をかくすため、労働者死傷病報告を故意に提出しない、または虚偽の内容で報告することをいいます。

※ 出典:厚生労働省「労災かくしとは何ですか」

単に提出が遅れた、書き方を誤ったといった事務的な不備と、故意の労災かくしは同じではありません。「労災かくし」は法令条文上の定義語ではありませんが、厚生労働省がFAQや行政文書で使用している呼称です。

労働者死傷病報告・労災保険請求・労災認定の違い

労働者死傷病報告と労災保険の請求は、別の手続きです。

  • 労働者死傷病報告:労働災害等が発生した場合に、事業者が労働基準監督署へ提出する義務(労働安全衛生規則第97条)。提出するのは会社であり、労働者ではありません。
  • 労災保険給付の請求労働者本人または遺族が労働基準監督署に対して行う手続き。会社が労働者死傷病報告を提出しているかどうかに関わらず、労働者側から請求できます。
  • 労災に該当するかどうかの判断:会社が決めるものではなく、請求を受けた労働基準監督署長が調査のうえで判断します。

報告が必要な災害・期限・提出方法

労働者死傷病報告の提出要否は、雇用形態ではなく、発生した災害の内容と休業日数などの条件で判断されます。

パート・アルバイトなど雇用形態を理由に対象外になることはありません。

対象となる災害の範囲

労働者死傷病報告は、労働災害のほか、就業中または事業場内・附属建設物内で発生した負傷、窒息、急性中毒により、労働者が死亡または休業した場合などが対象です。

  • 労働災害による死亡・休業
  • 就業中の負傷・窒息・急性中毒による死亡・休業
  • 事業場内・附属建設物内で発生した同様の事故

通勤災害は労災保険給付の対象にはなり得ますが、通常は労働者死傷病報告の対象ではありません。

※ 出典:厚生労働省「労働安全衛生規則第97条」厚生労働省「労働災害発生状況FAQ」

提出期限

  • 死亡・休業4日以上の場合:遅滞なく提出
  • 休業1〜3日の場合:四半期ごとに、その期間の最後の月の翌月末までに提出

2025年1月から、労働者死傷病報告は原則として電子申請が義務化されています(労働安全衛生規則第97条も「電子情報処理組織を使用して報告」と規定)。

電子申請が困難な場合は、当分の間は書面での提出も認められています。

2025年1月1日以降、従前の様式(第23号・第24号)は使用できないため、書面で報告する場合は厚生労働省が案内する2025年以降用の様式を使用します。

※ 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告の電子申請義務化」厚生労働省「労働安全衛生規則」

労災かくしの罰則

労働者死傷病報告を提出しない、または虚偽の内容で報告した場合、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金に処される可能性があります。

違反行為が会社(法人)の代表者や従業員によって行われた場合は、行為者本人だけでなく法人にも同様の罰金刑が科される「両罰規定」があります。

実際に罰則が科されるかどうか、また科される場合の量刑は、個別の事案ごとに裁判所が判断します。

※ 条文の引用・要約は厚生労働省「労働安全衛生法」に基づいています。最新の条文は必ず一次情報でご確認ください。

会社が報告・証明しない場合の相談と対応

事業主証明が得られない場合の労災保険給付請求

事業主証明が得られない場合でも、労働者本人・遺族が提出する労災保険給付の請求書は受け付けられます。勤務先を管轄する労働基準監督署へ相談してください。

※ 出典:厚生労働省「会社が責任を認めない場合の労災請求」

未提出・虚偽報告についての相談・申告

労働者を含む作業従事者は、労働安全衛生法第97条に基づき、事業場に法令違反の事実があるときに申告して是正を求めることができます。

労働者死傷病報告が提出されていない、あるいは虚偽の内容で報告されている疑いがある場合も、この申告制度を利用できます。

  • 第1項:作業従事者は、事業場に法令違反の事実があるときは、都道府県労働局長・労働基準監督署長・労働基準監督官に申告できる
  • 第2項:事業者は、申告をしたことを理由に、労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない

※ 安衛則97条の2は、化学物質によるがんの報告に関する別の規定です。

※ 出典:厚生労働省「労働安全衛生法」

相談窓口は、勤務先の事業場を管轄する労働基準監督署です。管轄署がわからない場合は、全国労働基準監督署の所在案内(厚生労働省)で確認できます。

公表事案は労災かくし・有罪の確定を意味しない

安衛則97条の記載だけでは故意の労災かくしと断定できない

労働局が公表する事案のうち、法条欄に労働安全衛生規則第97条(労働者死傷病報告)が記載されている事案のすべてが、「労災かくし」=故意の隠蔽であると断定できるわけではありません。

厚生労働省も、労働者死傷病報告義務違反のすべてが労災かくしではないと明記しています。

※ 出典:厚生労働省「最近における労災かくし事案の送検状況」

そのため当サイトでは「労災かくし企業」「労災かくし455件」のような断定的な表現は避け、「労働安全衛生規則第97条に関する公表事案」「労働者死傷病報告に関する公表事案」と表記しています。

送検・公表と有罪確定は別

当サイトが掲載しているのは、労働局が公表した「労働者死傷病報告に関する公表事案」であり、裁判で違反・有罪が確定したことを意味するものではありません。

公表される時点ではまだ送致段階であり、その後検察官が起訴するかどうか、裁判所が有罪と判断するかどうかは別の手続きです。

当サイト掲載データで見る労働者死傷病報告に関する公表事案

以下の件数は、労働者死傷病報告に関する公表事案の件数です。故意の「労災かくし」と確定した件数ではありません。

年別件数の推移(2023〜2026年)

「労働者死傷病報告に関する公表事案」を、2023年から2026年まで年別に集計しました(2023年より前は当サイトの掲載範囲が限られているため対象から除いています)。

ここでの件数は「その年に公表された件数」であり、違反が実際に発生した年や、罰則が確定した年とは必ずしも一致しません。

公表件数
2023年84件
2024年71件
2025年62件
2026年39件

2026年7月28日時点の集計であり、2026年分は年末までの件数ではありません。

この表が示しているのは公表件数の推移です。労災かくしの実際の発生件数が増減したことを示すものではありません。

都道府県別件数(2025〜2026年)

2025年と2026年の公表事案を、都道府県別に集計しました。

当サイト掲載件数の合計は101件です(1事案で同じ法条が複数回引用されている場合も1件として数えています)。

都道府県別の件数は次の通りです(割合は全国の実発生件数に対する割合ではありません)。

都道府県 件数 当サイト掲載件数に占める割合
北海道1件1.0%
青森県3件3.0%
岩手県0件0.0%
宮城県1件1.0%
秋田県2件2.0%
山形県1件1.0%
福島県4件4.0%
茨城県2件2.0%
栃木県4件4.0%
群馬県1件1.0%
埼玉県1件1.0%
千葉県2件2.0%
東京都4件4.0%
神奈川県2件2.0%
新潟県3件3.0%
富山県4件4.0%
石川県0件0.0%
福井県1件1.0%
山梨県1件1.0%
長野県5件5.0%
岐阜県7件6.9%
静岡県2件2.0%
愛知県5件5.0%
三重県3件3.0%
滋賀県3件3.0%
京都府0件0.0%
大阪府5件5.0%
兵庫県3件3.0%
奈良県1件1.0%
和歌山県2件2.0%
鳥取県4件4.0%
島根県0件0.0%
岡山県1件1.0%
広島県1件1.0%
山口県2件2.0%
徳島県1件1.0%
香川県1件1.0%
愛媛県1件1.0%
高知県0件0.0%
福岡県4件4.0%
佐賀県1件1.0%
長崎県3件3.0%
熊本県2件2.0%
大分県4件4.0%
宮崎県0件0.0%
鹿児島県3件3.0%
沖縄県0件0.0%

2026年7月28日時点の集計です。

件数の多さは、労働局の公表方針や都道府県内の事業所数の違いにも左右されるため、そのまま「違反の多い県」を意味するわけではありません。

参考値:2017〜2026年の掲載累計

2017〜2026年に当サイトが掲載した事案は、合計455件です。ただし、2022年以前は年や都道府県によって掲載範囲が限られるため、期間をそろえた比較には向きません。

年別では、2017年4件・2018年2件・2019年11件・2020年46件・2021年75件・2022年61件・2023年84件・2024年71件・2025年62件・2026年39件です。2026年7月28日時点の集計です。

労災かくしに対する行政の対応

厚生労働省・労働局は、労災かくしに対して次のような行政対応を行っています。

  • 監督部門と労災補償部門の連携
  • 必要に応じた送検
  • メリット制適用事業における収支率の再計算・還付金回収
  • 建設業における元請を含む周知・指導

※ 出典:厚生労働省「労災かくしは犯罪です」

メリット制は、一定の要件を満たす事業だけに適用されます。労災かくしが判明した場合、厚生労働省は収支率を再計算し、必要に応じて還付金を回収します。

※ 出典:厚生労働省「労災保険のメリット制について」

建設業では重層的な請負関係があることから、厚生労働省は元請事業者による安全管理体制の強化や、労災かくし排除の周知を進めています。

公表資料からは、各社が報告しなかった理由までは分かりません。

集計方法・掲載範囲・出典

集計対象は、公表資料の法条欄に労働安全衛生規則第97条が記載された事案です。表記の揺れはまとめ、同じ事案に同じ法条が複数記載されている場合も1件として数えました。

労働安全衛生法第100条だけが記載された事案は対象にしていません。第100条は報告命令全般の根拠となる条文で、労働者死傷病報告とは関係のない事案も含まれるためです。

また、2件(さくら運輸(株)、井村解体工事)は、労働局の公表資料の法条欄に「労働安全衛生法第97条」と記載されています。

事案概要が、法条欄に労働安全衛生規則第97条と記載された他の事案と同様に、労働者死傷病報告の未提出・虚偽報告を内容としているため、本ページでは「労働者死傷病報告に関する公表事案」として集計に含めています。

この2件を含めない場合の件数は、本ページの件数より2件少なくなります。

掲載範囲

当サイトのデータは、各都道府県労働局と厚生労働省の公表資料をもとに収集しています。公表期間や収集状況が地域によって異なるため、公表された全事案を網羅しているとは限りません。

一次情報・最終確認日

条文は法改正により変更される場合があるため、最新の内容は必ず上記の一次情報でご確認ください。

法令・制度の最終確認日:2026年7月28日

関連ページ

よくある質問

労災かくしをするとどうなる?

労働安全衛生法第120条により、50万円以下の罰金に処される可能性があります。実際に科されるかどうかは、個別の事案ごとに裁判所が判断します。

会社が労災と認めなくても労災保険を請求できる?

はい。会社の証明が得られなくても請求できます。書類の出し方については、勤務先を管轄する労働基準監督署へ相談してください。

会社が労働者死傷病報告を提出しない場合はどこへ相談する?

労働安全衛生法第97条に基づき、勤務先の事業場を管轄する労働基準監督署に申告できます。申告を理由とした不利益な取扱いは禁止されています。

アルバイト・パートでも労働者死傷病報告の対象になる?

雇用形態だけを理由に、労働者死傷病報告や労災保険の対象外になることはありません。

労働者死傷病報告の提出要否は、死亡・休業日数などの条件で判断されるものであり、雇用形態では決まりません。

労災かくしはどうやって発覚する?

被災労働者からの申告、労災保険関係書類との突合、監督指導時の出勤簿・作業日誌の確認、関係部署から寄せられた情報などを通じて発覚することがあります。

公表されている企業は必ず違反が確定した企業か?

いいえ。書類送検等が行われた事案のうち一定の基準に該当するものが公表されており、その後の起訴・有罪の有無とは別です。

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